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2000年3月10日(金)
◆《熱いキスから始まって》

 帰宅すると熱いキスが待っていた。四歳の娘は最近いたくパパがお気に入りで、一息つくまでのあいだに百回ぐらい「ぱぱ」という呼びかけをきくような気がする。すでに口癖の領域なのかもしれない。そういう年齢でもあるのだろうが、二人めが生まれて母親がかまってやれない分を父親が補填できれば、という思いもあり、こちらが拍車をかけてしまっている部分もある。

 子ども二人を風呂に入れると晩飯。それが済むと八時半ぐらいだろうか。それから三十分ほど上の子と布団の上で絵本読みをする。今夜は保育園で借りてきたディズニー絵本の「ライオン・キング」。文章も絵もおざなりなヒドい代物だ。それでも気に入ってるので読んでやるが、案の定おもしろくないのですぐに飽きてしまう。
 そうこうしていると妻が下の子を抱いて上がってきた。こっちは風呂上がりに飲んだウイスキーが多かったのか合わなかったのか、それとも疲れていたのか、むにゃむにゃと話をしたところで寝入ってしまった。

* * *

 時計を見てもうすぐ二時かと思ったけれど、起きる気になれなかった。やはりウイスキーのせいだろう。そのまま脳ミソが雲になったような朦朧とした世界をさまよう。
 突然下の子が泣いた。鋭さのある大声。キツいな……と思っていると、先に妻が起きた。
「ごめんごめん、起きてたんやけど」
「ううん。まだ十二時前やなあ」
「え? ……ほんまや、1が見えてなかった。もうすぐ二時やと思ってた」
 たいてい二時前後に上の子にオシッコをさせる。二時間以上あるのでどうしようかと思ったけれど、させることにした。そうして、今夜はきちんと眠ろう。

 トイレからもどってスリープしていたパソコンをシャットダウンしようとして一旦つけ、ついでにメールに目を通していると、また下の子が鋭く泣いた。最近は抱いていると眠るのに、下ろしたとたんにギャーギャー泣く。平衡センサー付きの爆弾のようだ。
「よぉ泣くなぁ」
 と笑う。
「ほんまになぁ」
 と妻も笑った。
「この子もごんたやわ」
 妻が寝てからせいぜい一時間ぐらいだろう。
「抱いてたら寝るやろ」
 といって子どもを受け取った。おたがいにシビアなことはわかっているので、おたがいにやわらかく喋る。でないと神経も身体ももたない。
 下の子は相変わらず髪の毛がほとんどなく、輪郭も感触もたまごのようだ。密着する部分が多くなるように抱くと、暖かいのか、とりあえず眠ってくれる。薄笑いを浮かべたような表情。B.G.M はふとしたきっかけで最近よく聴いているキャロル・キングだ。なにか音楽がかかっているほうがよく眠ってくれるような気がしている。
 十分ほどそうして揺らしていると妻の寝息が聞こえてきた。下の子もよく眠っているようなので、そおっとベビーベッドにおろす……と、と同時に身体をビクッとさせて泣き出した。失敗。あわててもう一度抱き上げる。
「ごめんね……」
 寝言のように妻が言った。
「ごめんごめん、失敗した。もうちょっと抱くわ」
「ごめんね……」
 喋るとよけいに起こすので、返事をせずに部屋を出る。
 そんなことを二度繰り返した時点で、妻が起きた。
「ごめん、あかんかった」
「ううん、このごろ昼もずっとそんなんやねん。あっちゃんもそんなときあったけど、全然寝てくれへん。ちょっとおっぱいあげてみるわ」
 そういって妻が子どもを抱いた。
 役立たずの夫は結局目が覚めてしまい、コンピュータの前に座ってこうしてあてもなく書いている次第。今度は上の子が寝言で「ぱぱ〜」と呼ぶただいま午前三時半。(5Stick▼)