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「ぱぱ、あっちゃんのくびをわすれないでね」
風呂場で自分の身体を洗っていると、湯舟に入れた子どもがぽつりとそう言った。
「え?」
「ぱぱがね、いくときにあっちゃんのくびをわすれないでっていってるの」
「首?」
なにを言い出すんだ急に。意味がまったくわからない。それでも子どもは真面目な表情だった。
「首を? 持っていくの?」
「うん。あっちゃんのくび」
頬から背中にかけて薄気味の悪い電気が走った。どう受けていいのかわからない。
「なんでパパがあっちゃんの首を持っていくの? あっちゃんの首がはずれるの?」
「うん。あっちゃんのくびがはずれたときに、わすれないでね」
……ちょ、ちょっと待ってくれ。なんやこれは。
なんでこんなことを言い出すのかまったくわからず、必死で心当たりを探した。猛烈な速さでいろんな考えが次々と頭を駆けめぐる。
真っ先に浮かんだのが、神戸の酒鬼薔薇事件。そしてこれから何かが起こるというホラー映画のイントロみたいなシーンに今自分がいるという考え。「ハイランダー」という映画の首とばしシーンも浮かんだ。でもバカげてる。バカげてなくてもそんな怖い話はとにかくあっちへ置いておく。
怖い夢でも見たか。このごろリアルな夢を見るようでよく寝言を言っているし。しかし夢を見るにしても理由があるだろう。テレビか。最近そんな猟奇殺人があったのか。いや、ない。あっても極力見せてないはずだ。ではビデオ。昨日ビデオを借りた……のはなんだったっけ、「王子と剣」。剣というだけに首でもとばすシーンが出てきたか。知らない。わたしはまだ見ていない。けれど、もともと子ども用の作品だからな、まさかな。他に最近よく見ているのは?「オズの魔法使い」。そんなシーンはなかったと思う。「Toy Story」。ちょっと怪しい。けど、もうだいぶ時間が経つからなぁ……。他には? 人形の首でもとばしたか。
「お人形さんが壊れたの?」
「ううん、ちがうよ、あっちゃんのくびだよ」
わからん。こら、そんな真剣な目でこっちを見るんやない。怖いやんか。
あとは? 絵本と紙芝居。絵本はあまり読んでいない。紙芝居。「おまんじゅうのだいすきなおとのさま」だったっけ、あれが一番多い。おまんじゅうが膨らむ話で首はとばない。「つばめ」の話も好きだけどこれも問題ないだろう。あとはアンパンマン…………アンパンマン!ビンゴ!!これや、絶対これや。
「アンパンマンの話?」
「うん。あんぱんまんはね、くびがはずれるでしょ?」
そうなのだ。首がはずれる上に、新しい顔にすげ替えられて元気をとりもどすのが売りだ。そしてテレビやビデオでは首なし状態になるのは一瞬だけだが、紙芝居などに出てくる初期のアンパンマンは、首から上を全部ひもじい人に食べさせてあげて首なし状態になってもそのままで大丈夫なのだ。けっこう強烈な絵だとは思っていた。
「だからね、あっちゃんがあんぱんまんみたいにくびがはずれたら、ぱぱがもってきてね」
「オッケー、ほんとやなぁ、アンパンマンは首がはずれるね。でもあっちゃんははずれないよ」
「そおお、しょくぱんまんさまもはずれないよ。カレーパンマンもはずれない。でもアンパンマンははずれるの」
「そうやね、でももしあっちゃんの首がはずれても、パパがちゃんと新しい顔を作ってあげるから大丈夫だよ」
「ほんと! ありがとう、ぱぱ。ぱぱってじゃむおじさんみたいだね」
ふー。
是非の話はおいといて。とにかく最初に思いつくべし、アンパンマン。
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