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2000年4月16日(日)
◆《反抗?》

 お昼過ぎまで仕事。帰ってぐったりしていると、上の子が電気スタンドで遊び始めた。
 わたしがたしか小学生のころから使っている白熱電球の電気スタンドで、明るさを三段階に調節できるスイッチがついている。特別な愛着があるというわけでもないけれど、壊れないまま使い続けてかれこれ三十年近くになるという代物だった。最近は夜中の授乳のお供として活躍していた。
 むすめはこの電気スタンドを天井に向けたりして遊ぶのが好きだ。人間でいうと、うつぶせたまま首から上だけが上を向く感じだろうか。電球が熱くなるとやけどするので注意するが、なかなかきかない。さらに遊びがエスカレートしてくると、首から上の部分を何回転もさせてしまう。もちろん回転は禁止で、見つけたら叱りつけてでもやめさせていた。

 このときもたまたま回転の現場を目撃したので即座に叱った。
「くるくる回したら壊れるからやめなさい」
 まだやめない。
「それはしたらダメ、やめなさい!」
 すると幾分聞き取りにくい声で、
「あっちにおいたらええねん」
 という言葉が返ってきた。ギクリとなった。彼女が生まれてから初めて聞かされるはっきりとした反抗の言葉だった。耳を疑った。
「なんて?」
「あそんだらあかんのはあっちにおいたらええねん」
 すでにパニックぎみだったので正確ではないかもしれないが、そういう意味の言葉だった。
 ショックだった。まだまだ会話自体が危なっかしいのに、露骨な反抗の言葉が返ってくるとは想像もしていなかった。短い沈黙のあと、驚いた妻が、
「それはパパのスタンドでしょう? ママが夜にわきちゃんにおっぱいあげるからそこに置いてもらってるんやんか」
 と言った。わたしの表情も変わっていたのだろう、
「ぱぱ、ごめんなさい」
 と、娘があっさりと前言を撤回して謝ってきた。もう一度、
「ぱぱ、ごめんなさい」
 この間がよかった。なんとなく不自然な感じのする娘の言動にピンときたものがあった。
「幼稚園にそんな言い方する子がいてるのか?」
「うん」
「男の子?」
「うん。わるいことをね、するの。あっちにもっていけっていうんだよ」
 黒い瞳がまっすぐに見つめてきた。娘の感じている理不尽さが伝わってくる。
「そうか…… いじめっ子なんか?」
「ううん、でもごんたなの」
「そうかぁ」
 どういっていいかわからない。
「とにかく、負けたらあかんで」
 なんかなぁ……勝ち負けの話でもないだろうに。けど、腕力になるとやはり男の子に負けるかもしれない。それに何か喋らないと妙に涙腺にきそうだった。
「勝たんでもいいけど、どうやったら負けへんか考えたらええねん」
「そお?」
 やっぱりはずしてる。
「そうや、なんか買いモンにいこか」
「うん」
 うまく乗ってきてくれた。なんでもいい、わけがわからないまま叱りつけずにすんだことだけはラッキーだった。あー、それにしても幼稚園でどんな生活をしているのか、覗いてみたいという欲求がつのる。