title
2000年6月8日(木)
◆《包丁の使い方》

「そうや、昨日な、包丁つきつけられてんで」
「え?」
「わきちゃんとあっちゃんと三人で遊んでたらな、あっちゃんがだんだん自分の思いどおりになれへんようになってきてイライラしてきてん。そしたらな、そのうちにままごとの包丁もってきてわたしに突きつけて『ころしてやる!』って言いやんねん」
 インターネットを使っていたわたしは妻の言葉を、へぇ〜、そろそろそういうこともあるのかなぁと思って聞いていた。
「わたしがコワい顔でにらんだらな、そしたら今度は自分のお腹にむけて『しんでやる!』って言うねん。わたしもぉ、びっくりして、こんなん絶対許したらあかんと思ってめちゃくちゃ怒ってん」
「なんて?」
 とききながら、不覚にも笑いがもれてしまった。
「なんで笑うの?」
「いやいや、なんて怒ったん?」
「あっちゃんはな、ママが手術で難儀して産んだんやで、それでパパと一緒に一生懸命大事に大事に育ててきてるのに、死んだりしたら絶対あかん! ごめんなさいしなさい! 冗談でも絶対そんなことしたらあかん! って」
 まぁねぇ、気持ちの悪い冗談であることはたしかやけど、そんなにピリピリせんでも。包丁にはそれぐらいの力があるってわかってきたということなんやろうし。
「で?」
「わたしが本気で言ってるってわかったんか、いっぺんに泣き出してすぐにごめんなさいしてくれた」
「よかったよかった」
「せやけど、あんな遊び、幼稚園でしてるんかなぁ」
「そらしてるやろ、やんちゃな男の子なんかもいてるやろうし、ここ一番には刺し違えるぐらいの気合いがなかったら……」
「なに言うてんのよ、コワいこと言わんといてえな」
 最近は口も達者になってきたし、少々怒られるぐらいは「ママとケンカした」と思ってるむすめだ。それだけに久々に自分の気合い一発で子どもが恐れ入ってくれたことは、母親としてのプライドを満足させてくれたのかもしれない。妻の話にはそういうトーンもかすかにあるような気がした。そうでしょそうでしょ、たまにはそういうこともないとやってられんわな。
「でもな、あとでな、『ママ、これはね、おもちゃなんだよ。ほらこうしてもね、きれないよ、ほら。こうしてもこうしても、ちぃもでないからだいじょうぶなんだよ。これはおもちゃをきるやちゅなの』って言うてた。そんなんわかってるやん、なぁ」
 なぁて言われても。子ォもおもしろいけど、妻も負けてない。……あ、逆か。


 ということでしめようと思ったら、続編があったらしい。
 その後、例によっておもちゃを出しまくったまま片づけずにいたあっちゃんを、おばあちゃんがちょっと叱ったらしい。少しもお片づけしないんやったら、おもちゃもあっちゃんも一緒に捨ててしまうよ! てなところだろう。するとわがむすめ、
「おばあちゃん? あっちゃんはね、ママがなんぎしてうんでくれて、だいじにだいじにおおきくなったの。だからね、あっちゃんをすてたらママもパパもなくよ」


♪ with "Cuts Like a Knife" / BRYAN ADAMS