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「ぱぱ、まま、ちょっとおきて」
か細い声で言われたのが午前二時半過ぎ。みると、むすめが布団の上で正座していた。ちなみにわたしが寝たのは一時半ごろ。
「ちょっとゆびにくろいものがあるの。いたいの」
こういう言われかたをすると、なんだかどきっとする。
「でんきをつけてしらべてよ」
電気? んー、下の子が起きるかもしれんが……仕方ないか。妻もうなずいたので、ならばと電気をつけた。目を開けていられないほどまぶしい。その細めた目で調べてみると、左手の小指の腹にソゲがささっているようだった。黒いものが点みたいなものでよかった。寝ながら暴れているうちにどこかをこすったりしたのだろう。きっと何分も眺めたり触ったりして不安だったのだろうなぁ。
「ソゲやなぁ」
「ソゲ? ソゲってなに?」
早くも泣きそうな声だ。
「トゲのこと。木の……そこの柱のとことか、しゅっとこすったりしたら木の小さいのが刺さったりするんや」
「いたいよー、おくすりつけたらなおるの?」
「お薬もやけど、とにかくそのソゲを抜かないと」 「いや、ぬいたらもっといたい」
「痛くない痛くない、ちょっと待ってや」
と、薬関係の小物が入っている容器をゴソゴソと探した。トゲ抜きもあったかもしれない。
「ぬいたらいややー」
大きな泣きべそ声。こ、こらっと思う間もなく下の子が泣き出した。あーあ、もう……。妻がすぐにあやしにかかった。
「そんな大きな声出したらあかんやろォ……」
と言いながらもう一度小指をとると、ソゲは無かった。
「あ、とれてるわ」
「ぬいたの?」
「抜いてないよ、今どこかにさわってとれたんやろ。見てごらん、ないやろ?」
「うん」
「よかったよかった、あとは薬塗ったら治るよ」
と薬を塗ってやった。その薬がオロナインじゃないといって騒いでいたが適当に言いくるめ、傷テープ(大阪では「バンドエイド」でとおる)を貼れというのも、眠いので「貼らないほうが早く治る」といって寝かせた。
二、三十分後、
「ぱぱ、おくすりがね、もうカラカラなの」
ん? くすり? そうか、指をこすってたか。ごめんごめん、そら気になるよなぁ。やれやれ、傷テープを省いたバチだ、仕方がないのでもう一回薬を塗って、今度はテープを貼って寝かせた。
さらに二、三十分後、
「ぱぱ、あつい。あつくてねられないからアイスクリームたべたい」
なに? あつい? アイスクリーム? 今何時? ……もうすぐ四時やないか、ダメダメ、こんな時間に。
「だってあついもん」
また泣きべそ声。ええかげんにせえよォ、と思いながらも一応おでこを触ってみるとたしかに汗で髪の毛がはりついていた。そうなのよ、子どもの言うことは一度はまともにきいてみないとエラい失敗をやらかすことがあるのよ。しかしアイスクリームはダメだ。そう言うと、氷枕という妥協案をむこうから出してきた。もちろん冷凍ジェルみたいなやつだが、ちょいちょい使って寝るのだ。仕方がない、取りにいった。それでなんとか寝てくれよ……と祈りながら三十回ほどうちわパタパタもサービスした。外が明るくなってきたような気がしたけれど、見えてないことにして目を閉じた。
さらに何分か何十分か後、
「いたぁいよォー」
またかぁ? と思ったけど、これは寝言だった。
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