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2000年8月8日(火)
◆《胸の痛む話》

 上の子が這うようになったころ、妻が彼女をこう呼んだことがあった。「巨大ヒル」。ヒルは血を吸うあのヒルである。むすめの母乳に対する凄まじいまでの欲求と、それを手に入れるための行動がそう言わせたのだった。朝、先に目を覚ましたむすめはお腹が空いてくると妻の体に這い登り、自分で妻の胸をはだけておっぱいにすいつくのだ。もしそのまま妻が立ち上がってもぶら下がっていそうな迫力で、見ていて、もう許してやってくれよ……と思ったことが何度かある。ちなみにむすめの上くちびるには、四歳の今でもおっぱいダコ(お乳を吸うことでできるタコ。バットの素振りで手のひらにできるマメと同じ原理かどうかはよく知らない)の痕跡がある。

 下の子もそろそろそういう時期になってきたのだが、「巨大ヒル」という感じとはまた違うらしい。おっぱいダコもあまり固くならず(上の子に鍛えられたおかげで母乳の出がいいから、という説もある)、体の上に這い登ってくるという感じでもないらしい。ただ、口をおっぱいのそばまで持ってくると、乳首のあたりを指でつまんで口に入れようとして引っ張るのだとか。「痛いーっ!そんなに伸びるわけないやんか、あほたれ」という妻の言葉をきくと、わたしの胸も切なく痛む……。

 授乳の最中に突然黒く大きな虫がぶーんと飛んできて、妻の胸にとまったことがある。きゃっ!というと、その虫を払い落としたが、ついでに子どもも膝から落ちかけた。虫は普通のコガネムシだった。洗濯物についていたのだろう。
「ブンブンやった。ゴキブリかと思ったわ、ああ、びっくりした」
 コガネムシをベランダから放してもどってくると、妻子は何事もなかったかのように授乳にもどっていた。ゴキブリでさえなかったらオッケーというのも、納得していいのか驚いていいのかを迷ってしまうものだ。たくましいことだけはよくわかったけれど。


♪ with "Fundamental" / Bonny Raitt