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「あっ、これはあっちゃんのだ!」
姉がそう言って妹の手からすばやくメジャーをひったくった。巻き尺のメジャー。小さいころから大好きで、スチール製のものは巻き戻しの勢いが強くて危なっかしいから、ビニール製のものをおもちゃにしていた。
「そんなに急に取り上げてやるなよ」
毎度のことだが、いくら言ってもその場になるとなかなかそっとできないものらしい。
「だってこれはあっちゃんのものだもん。ままがくれたんだよ」
取られたほうは慣れているのか、泣きもしない。……あっちゃんのものか。ほんとやなぁ、もらったものしかおまえのものになられへんよな。
「宝物か?」
「うん」
「あっちゃんは宝物いっぱい持ってるな」
「うん」
「どれが一番宝物?」
「これ」
迷わず手に持っているメジャーを差しだした。
「あ、これが一番宝物やったんか。そしたら妹が遊んだりせえへんように片づけとかんと……」
まるで魔法の指だ。触ったものはみんな最高の宝物。
「でもね、でもね、ほんもののたからものはままがなおしてるよ」
「本物の宝物って?」
「びーず。ちっちゃいからね、わきちゃんがたべたらあかんから、ままがうえのほうになおしてくれてるの」
と箪笥の上を指さした。
「それでわきちゃんがさんさいになっておおきくなったときに、ままがとってくれていっしょにあそぶの」
「そうか…… そうやな、わきちゃんが早く大きくなったらいいな」
「うん。あっちゃんね、わきちゃんがだいすきやから、はやくいっしょにびーずであそびたいな」
話していると不意に、よく聞き分けてくれていることが切なくてたまらなくなってきた。そのとおり、むすめはビーズで遊ぶのが大好きだったのだ。ビーズといっても五ミリ四方の丸いものから星やイルカなどの形をした一〜二センチ程度のものまでいろいろあってごちゃ混ぜになっている。それをより分けてゴムひもに通したりして遊んでいた。ぶっちゃけたりするとどうしても全部を片づけきれずに、よく踏みつけてイライラしたものだ。それが、乳児がいるとなると、親が注意して片づけるにしてもやはり完全というわけにはいかない。飲み込む危険がなくなるまでは禁止にするしかないだろう。おそらくは妻が何度も何度も話してきかせ、ときに叱りもし、そしてむすめも泣いたりもしただろう。それでもとにかく状況を受け入れてくれてるわけだ。こういう約束だけはどんなことがあっても絶対に破ってはだめだと自分に言い聞かせる。
「びーずのたからものはね、いーっぱいあるんやで」
両手をぐるっと回した。
「知ってる知ってる」
しかし、二人してあのこまかいのをぶっちゃけて、どれが自分のだとか、どっちがきれいとか、とったとかとられたとか、キーキー泣いたりわめいたり。挙げ句の果てに投げ合ったり。宝物だけに非情な現実が付いてくるんだろうなァ……。
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