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ひと月ほど前、上の子が公園の砂場で遊んでいたとき、年下らしい男の子から目のあたりにまともに砂をかけられたことがあった。
あれからわたしにわかったことは、相手の母親は中国語らしき言葉を話していて、公園にもしょっちゅう来ているということだった。二度めは黙っていないつもりで注視していると男の子の相変わらずのやんちゃぶりが目についた。子どもを叩くところも何度か見た。一歳ぐらいの、ちょうど歩き始めたぐらいの下の子がいて、母親が子ども用のリード(引き綱)?をつけて引っ張っている姿も目立った。日本語が話せるかどうかはわからなかった。
昨日あたりから天気が下り坂らしく、湿度も高かった。今日の予報も午後から雨。実際夕方からポツポツ降ってきていたにもかかわらず、それでも雨の中を散歩したいとむすめが言い出した。下の子が寝ていたので、わたしが連れ出すことにしたら雨はやんでいた。
公園にいくものの、いつもの友だちは誰もいない。ブランコなどをして遊んでいると、やがてくだんの親子が現れた。
「あ、砂かけぼうずや……」
口がすべった。
「どこ? ほんとだ、あっちゃんおすなかけられるのいやや、かえる」
と表情を曇らせた。
「大丈夫大丈夫、ちゃんと見とくから」
「おめめにおすなかけられたらね、こわいねん」
「怖いけど、あっちゃんよりちっちゃい子ォやんか。負けたらあかん、ぱっとよけて『やめて!』って言うたらええねん」
「でも、おもちゃも持っていったりするよ」
「大丈夫やって」
といっても砂場で遊んでいるわけではなかったので、そのままブランコやすべり台などをしていた。しばらくすると、むすめがとことことやってきてわたしに言った。
「やっぱりこわい」
どうしてだろう、いつもはこんなに言ったりしないのに。誰もいないからだろうか。
「そうか…… しゃあないな。そしたら雨も降りそうやし、もう帰ろうか」
「ううん、こわいからね、あっちゃんおともだちになってみるわ」
「ええっ!?」
「あっちゃんな、なかよしになるのうまいデ」
完全に意表をつかれてしまった。とにかく、
「じゃあいっぺんいっといで」
と言うと、そのまますぐに男の子のいる遊具のほうへ走っていき、ものの十秒ほどで握手していた。「ほらね!」などと言っている。あらら……。そりゃまぁ、こちらが不愉快に思っていただけだから、握手ぐらいべつに難しいことでもないだろう。しかしそれにしても鮮やかすぎる状況の進展に唖然とするばかりだった。なにかこういう展開の話でも見聞きしたのだろうか。それともイヤな記憶よりも退屈さが勝ったのか。いずれにしても子ども同士は屈託のないもので、すぐにきゃっきゃと一緒に遊び始めた。
それを見ているとなんとも言えない自己嫌悪が沸き上がってきた。というのも、わたしは知り合いのお母さんに、気をつけたほうがいいと忠告したことさえあったからだ。そりゃそうだろう、自分の子どもから「すなをかけられるから、もうこうえんにはいかない」などと思い出したように言われて、現に目の前で男の子が他人のモノをひきたくって遊んでいたりすれば、今にも何か起こりそうな気がしてしまう。一番近くにいる人に注意してもらうしかないではないか。……ああ、しかし娘に「友だちになってみるか?」ぐらいは言えただろう。
すぐに雷の音が聞こえはじめた。雨もポツリポツリ。雨と戯れて走り回る子どもをつかまえて、とにかく帰り支度をさせていると、男の子の母親が近づいてきた。
「ア、アリガト。……ニホンゴ、ダメ、デス」
と言いながら笑顔で軽く頭を下げた。
「そうですか、はい」
とだけ答える。笑ったつもりだが少し引きつっていたかもしれない。あっちゃんが大きな声で、
「ばいばーい! またねー」
と言った。わたしは、
「再見(ツァイチェン)!」
と言ったが、きっと声が小さくて聞こえなかっただろう。……この際、中国語を勉強するか。
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