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2000年9月14日(木)
◆《空耳》

 チャリンチャリンという音が聞こえた。犬の首輪についた金具のなる音――五月にドンが死んでからいまだに聞こえる空耳だ。深夜の静けさの中だとよくわかる。もっともそろそろ窓をあける家も多くなる季節なので、実際の何かの音を聞き違えているのかもしれない。まぁどちらでもいいことだ。

 ドンがいたころは、夜になると一階の食卓のそばにあるソファか玄関で寝ていた。一晩のうちに幾度かその二カ所をいききするらしく、チャリンチャリンという音が聞こえたものだ。そして場所を整えて腰を下ろすとフン!という溜息を一つつく。たまに耳の後ろを掻いたりするときは、チャリチャリチャリチャリ……という音がしていた。
 外耳炎をこじらせて化膿止めの薬を飲むと、利尿作用のせいか、朝までガマンできなくなって台所でオシッコをした。若ければ叱りつけるところだが、十数年も一緒に暮らしていてしなかったことだ。きっとどうしようもないことだったのだろう。

 死んでからしばらくは、本当にチャリンチャリンという音が聞こえているような気がして、何度も振り向き、いたはずの場所を目で探したものだった。最近は頻度もおちたけれど、それだけに単純な空耳でもないような気がしている。帰って来てるのならもっとはっきり知らせてくれたらいいのに。

 なかなか寝つかれずに、もう一本缶ビールを飲もうと下に降りて冷蔵庫を開けると、足下に水たまりがあった。……見覚えのある位置と量。そのとき、またチャリンチャリンが聞こえたような気がした。見回してみたけれどなんの気配もない。そういえば音が聞こえたときに台所に水たまりがあったのは二度めだったかな。それにしても、もうちょっと別な知らせ方もあるだろうに。でもまぁあいつだとすればあいつらしいのかもしれない。