|
上の子の風邪がきっちりとうつったのか、下の子が熱をだし深い咳をしはじめた。再び医者に連れていくことになった月曜日は朝から雨。ちょっとやそっとでやみそうにもない、しっかりとした降りだった。朝一番の最低限のことだけを済ませて仕事場から戻り、車で医者におくっていくことをためらわなかった。
医院の付近には車をとめる場所がないので一人で家に戻る。
家は静かだった。一人でいることがめったにないので、その静けさがしみる。庭の木が雨に洗われているのをしばらく見ていた。二日続けてあまり眠っていないにもかかわらず、疲労感があるのかないのかわからない。それどころか、暑いのか寒いのかさえもよくわからなかった。たぶん少し蒸し暑いのだと思うけれど、額に汗がうくほどではないだろう。こういうのを脂汗というのだろう……そう思った。
二、三日前から右側の腰というか、脇腹というか、そのあたりが痛かった。筋肉ではなく内蔵の感じだ。下腹のあたりも少し痛む。肝臓か、あるいは消化器のどこかなのか自分では特定できない。学生時代からアルコールの含有量と値段の比でウイスキーを選ぶような人間である上、定期検診というものを受けていないので不安が芽生えるとその成長も早かった。鈍痛と言えば鈍痛。シクシク、キリキリ、じわっ、きゅーっ、ぐうぅぅ、と、どれでもあてはまりそうな気がした。もしも肝臓にそんな自覚症状があればすでにゲームオーバーだろうか。
潮の満ち引きのように、消えたり押し寄せてきたりしながら痛みが強くなってきた。そのため口にするタイミングをのがした上、折からの子どもの風邪で妻はすでにフラフラだ。そんな時に「実はオレも……」とは言いたくない。言えない。今日目が覚めて痛みがなければ後日こっそりと医者にかかろう、などと考えていた。だが痛みはひかなかった。むしろ悪化しており、無意識に息を詰めたり「ううっ」と唸ったりしてしまうほどになった。なにがどうなったのかわからないけれど、場合によってはしばらくは庭を見ることもできなくなるかもしれない。それ以上のことはさすがに想像したくなかった。
下の子の風邪は重めの診断だった。レントゲンでは異常はないようだが、気管からの咳なので注意がいるとのこと。実際、重い咳をしてそのたびに吐いた。
わたしはコンピュータに向かうが、呻き声を抑えるのに神経を使うほどでなにも手につかない。昼を過ぎて、仕方なく、眠いと言って横になったら不思議と三十分ほど眠れた。
目が覚めても痛みは同じだった。そのあと、とにかく今日は悟られないようにと思って必死に過ごした。そして夕方、トイレで尿が赤みを帯びているのに気がついて、頭の中でフラッシュが光った。――腎臓結石か!? この春、母親が患ったばかりで、そのときの症状と共通するものがたくさんあった。痛みの位置、その表現、腰から下腹へ痛みが動いたこと……。数日前からあった残尿感や排尿時の異常な感覚をどうして結びつけて考えなかったのだろう。間違いない、そう思うだけで気持ちが軽くなるような気がした。けれどそれ以上の思いこみをしたくはない。第一、気持ちが軽くなっても痛みがひくわけではなく、結局晩飯を半分食べるのがやっとで、胃の調子が悪いといって先に横になった。とうとうたまらなくなって、あとからきた妻に、どうもそういうことのような気がするから明日医者にいくと告白し、わたしの母にもそう告げて、春の飲み残しの鎮痛剤をもらった。
あけて火曜日。鎮痛剤のおかげもあって久しぶりに熟睡できた。妻も少しは眠れたようでほっとする。薬の効き目がつづいているのか痛みはなく、久々の解放感にウキウキしてくる。しかしまったく痛みのない状態で医者にいくのもなんとなく気が引けるので夕方まで様子をみることにした。そうすれば鎮痛剤の効力もきれるだろう。
ところが結局夕方になっても痛みは出なかった。排尿時の異常な感覚もなくなっている。むくみなど、これといった他の症状もない。どうしようかと思ったが、家族にも告白した手前やはり医者にはいくことにした。
結果は、とりあえずレントゲンには写らないし、尿も若干血が混じっているようだが風邪をこじらせても出るような程度でほとんどキレイだとのこと。それ以上は造影剤によるレントゲン検査などをしないとなんとも言えないので、希望であれば手配するということだった。鎮痛剤と尿管弛緩剤というのをもらって帰ってきた。痛まないようなら、とりあえず水分を多めにとって運動するようにすればよいとのこと。そういうものなのだろうか。そういうものだという話もきいたことがあるような気はする。わたしの母親は一カ月以上毎日の点滴を続けて「石を溶かした」ということだったが。不思議なことに、それ以後、気のせい以上の痛みはない。……いずれにしても、そろそろ健康診断なトシだ。
|