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2000年10月27日(金)
◆《もう一息》

 鼻をかめない子どもを見るのは、切なく、またじれったいものだ。子持ちになるまで考えたこともなかったけれど、人間は鼻をかめるようになるまで三年かかる。直接確認したのはうちの上の子だけだが、まぁだいたいそんなものらしい。
 咳も苦しい。気管から痰が出るようになると咳も深くなって大人でもつらいものだ。子どもはなおさらだろう。さらにそうして咳がつづくと胃が刺激されるのか簡単に吐いてしまう。つづかなくとも、胃の中がいっぱいのときには二、三度の咳でオエッとなってしまう。

 今回の下の子の風邪ではたっぷり一週間、この咳に苦しめられた。一昨日あたりのピーク時では昼夜の区別なくおよそ三、四十分ごとに発作のような咳をし、二時間に一度ぐらいの割で吐いた。そしてそのあいだをオッパイにしがみついて埋めようとし、次の咳で飲んだばかりのものをもどすといったことの繰り返し。二、三日と思えば大抵のことは辛抱できるけれど、一週間をこえようとしてくるとさすがにキビしいものがある。夜、「ウーッ、オーーーッ」と子どもがリキみだすと飛び起きねばならない。わたしが「きたきたきたぁ!」、妻が「わぁぁぁー!」と叫んだりする。いいように表現すると、わたしは眠り込むと死体と同じだが起きさえすれば反応は早い。妻は起きるのが苦手だけれど眠りが浅い目なので起きる確率が高い。ま、どっこいどっこいだろう……とお互いに思っているだろう。もっとも今回は前回分に書いたような事情でわたしは不戦敗だった。
 下の子こはわーわー泣いたり、「ウォーッヘン!」などと大きな声をだしたりしながら、ある程度の痰が切れるまで咳をつづける。「ほんまに、オッサンみたいな赤ちゃんやナ……」「ヒゲ描いたろか」などというのがこのところの夫婦の夜の会話だった。親で試され、夫婦で試され、家族で試されているのだろう。そうとでも割り切って笑い話の一つもしないと、乳児のしつこい風邪に太刀打ちできそうにない。

 ようやく山をこえて、咳が落ち着きさえすれば普通になってきた。もう一息。あれだけ吐いてあれだけ苦しんだのに、体重も減っていない。「吐いた分だけオッパイ飲んでるのかなぁ」というのは妻の言葉。x`イ筮ョカsテ"ゆずりのバイタリティだ。

 家業を継いで間もないころ、元請け会社の年輩の担当者と一緒に初めて得意先回りをした。行き先は北陸地方で、繊維関係の機械を稼働する中小零細の工場。わたしの紹介がおもな目的の一つではあるけれど、平生の仕事の話もあっておもに喋るのは担当者だった。中の一軒で、名刺をわたしたあと、一家の主でもある社長さんと話をしていると、しばらくして信じられないことが起こった。何を思ったのか相手の社長さんがわたしの名刺にボールペンで穴をあけはじめたのだ。唖然として見ていたものの、何とも言えない不愉快さがこみ上げてくる。話に夢中になっていたための無意識の行為だろうとは思う。話の内容も概ね好意的なものだったから、今なら笑いながらもう一枚名刺を差し出したりできるかもしれない。しかし当時はなかなか消えない屈辱感や侮辱感をもてあましたものだった。

 初登庁であからさまに名刺に傷をつけられた新長野県知事はさぞ悔しかったに違いない。怒りに震えたに違いない。芸能人や有名人の知事があれこれ言われるのは仕方のないことだが、そういった知事の能力を云々する前に、行政のシステムやそこに従事する人間にまず最低限のレベルをクリアさせるほうが先だ……などと言われても仕方のない非礼だろう。有権者も、知事の吟味もだが、そういったことにも意識を向けざるをえなくなる。

 しっかし、世界記録をねらうと公言している走り屋さんに議員になれと言う神経もスゴい。権力の味をしめた者の良心は、一体どこまで堕ちていくんだろう……。


♪ with "Word Of Mouth" / Jaco Pastrius