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2000年11月16日(木)
◆《ひとくいざめのむしば》

「ひふぉふいばめもうしぶぁ、ひふぉふいばめもうしぶぁ、ひふぉふいばめもうしぶぁ……」
 おふろの中でむすめが歯を磨きながら言った。わたしは何のことかわからずきょとんとする。歯ブラシを口から出して、
「さんかいいうたよ」
 という。それで? なにそれ?
「あんな(あのね)、たかしくんがな、こうして……」
 と頭を掻くまねをした。そうか! 絵本の話だ。今図書館から借りている絵本に「おふろのうみ(川崎洋/作 遠山繁年/絵 すずき出版)」というのがある。たかしくんがはじめて一人でおふろに入る話だ。湯舟で泳いでいるといつのまにか海になっていて、カニさんに魔法のストローをもらって大冒険をする。
「ああそうか、でもあれは歯磨きじゃなくてお風呂のお湯の中で『ひとくいざめのむしば』って三回言うんやで」
「こうしていってたよ、もぉーっとおおきいの」
 と、やはり頭を掻く。頭を洗ってるときの絵のことだ。絵ではたしかに大きな泡が頭に乗っていたのだが、それとお湯につかっているときの絵が一緒になっているようだ。
「そうそう。でもそれは頭洗ってたんやって」
「どうして『ひとくいざめのむしば』っていうの?」
「十個あるからやん。ひ、と、く、い、ざ、め、の、む、し、ば、って。あっちゃんもお風呂の中で十まで数えたりするやろ? いち、にい、さん、しい……って言うより早く言えるし、おもしろいやんか」
「おふろでかぞえるの?」
「そうそう」
 どうもピンとこない顔をしている。一応十までは数えられるもののまだ数の概念がないので無理もない。はっきりわかっているのは二つか三つまでだろう。四つと五つも今と来年の年齢なのでわかってはいるようだけれど、三つが増えると四つになるというあたりがまだちょっとあやしいのだった。
「ひとくいざめはむしばがじゅっこあるの?」
「どうかなぁ。でも十個も虫歯があったらたいへんやデ」
「むしばだらけやな」
 といってケラケラ笑った。
「あっちゃん、ひとりであたまあらえるで」
「ほんとか。そら助かるなぁ」
「からだもひとりであらえるねん。みててや」
 いつも頭を先に洗ってやるので、その順番で自分でシャンプーをとって頭につけ、手を動かし始めた。みるみる泡が立ってくる。すると目をつむって、
「ひとくいざめのむしば、ひとくいざめのむしば、ひとくいざめのむしば……」
 やっぱりピンときていなかった。十回ぐらい言っただろうか。
「きれいになった?」
 とむすめがきいた。
「なったなった」
「アトムは?」
 と言いながら、髪の毛の角を二本作った。
「バイキンマンみたいやな」
「ア、ト、ム!」
「わかったわかった。でも『ひとくいざめのむしば』はお風呂に入ってから言うんやって」
「……そうでしたぁ。あっちゃんまちがえた。パパ、シャワーして」
 シャワーを出して、頭にかかるようにホルダーに置いてやった。するとうつむいて目をつむり、頭をごしごししながらやっぱり、
「ひとくいざめのむしば、ひとくいざめのむしば、ひとくいざめのむしば……」


♪ with "Tears" / Jason Rebello,Joy Rose