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2001年3月27日(火)
◆《ポップアップトースター》

 十年前、結婚したときに買った電子レンジはヒーターが内蔵されていてパンを焼くことができた。そうやって焼いたパンを食べていたし、電子レンジの側もトースター機能は売りの一つだったように思う。去年その電子レンジが昇天して同じような機種(ちなみに同じメーカー製)と買い換えたが、仕様の変更で焼くのにかなりの時間がかかるようになり、トースター機能の扱いそのものがずいぶん遠慮したものになっていた。これは、パンとの距離が離れるヒーターで焼くよりもオーブントースターなどで焼くほうがおいしいからそうしてください、ということのようで、心安くしている店員さんも「パンはオーブントースターのほうがおいしいから買ってください、二千円台からあるよ」みたいに言っていた。それは知っているんだけどね、置き場所もいるからなどと言葉を濁して帰ってきたのだが、実は買うのであればポップアップ式のトースターと思っていた。だが単機能(食パンを焼くだけ)にもかかわらずオーブントースターよりも割高なのがひっかかっていた。わたしの母などは現にレンジで焼けるのだからなんでそんなものが要るのかという感じで、そういうのを押し切るほどのこだわりもないままきていた。
 で、その念願のポップアップトースターをとうとう手に入れた。先日発泡スチロールを買いにいったときに二千五百円というのを見つけたのである。
 記念すべき最初の一枚は、電子レンジに比べて五分の一以下の早さで焼き上がった。ところが少し焼けすぎ。その場を仕切っていたわたしはあっと思って躊躇なくそのコゲコゲを手近にあったバターナイフでこそぎ落としにかかった。お皿や容器の中のマーガリンにまでコゲた粉が点と散った。そういえばそうだった。小さいころ、パンを焼くというのは、いや、朝の食卓にはこのおコゲの粉がつきものだった。バターの容器のふちやバターナイフにはいつもコゲ茶色の点々がついていたものだ。トースター一つがそんなノスタルジーをもたらすとは予想していなかった。少しぐらいのコゲなど恐れるに足りない。カリカリとこそぎ落とすと、いつもよりも少し多めにマーガリンをぬってがぶりと一口。おー、香ばしさとマーガリンの油感が相まって口に広がってゆく。これはうまいゾ。電子レンジで焼いたものとは香ばしさがまるで違った。表面だけをこんがり焼いて中味は生を温めたような感じ。好みもあるけれど、子どももいつもよりおいしいと感じているようだった。
 考えてみればこんなトースターを使うのはおそらく三十年以上ぶりで、したがって三十年以上ぶりぐらいに味わう味になる…… のだが、昔の味とは微妙にどこかちがうような気もした。どこがちがうのだろうといろいろな厚さのものを試したりして何度か食べるうちに気がついた。それは食パンの耳の硬さだった。最近の食パンはおしなべて耳までが柔らかく、そのため焼け具合が昔とはちがうような気がするのだ。そう思うと耳の硬い食パンを焼いて食べてみたくなったりする。昔食べていたときにはきっとその硬さが好きではなかったろうに。


♪ with "Tapestry" / Carole King