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2001年5月14日(月)
◆《裏目》

 仕事を休みにしたのが間違いだった。魔が刺したのだ。子どもが幼稚園の創立記念日で休みだというから、ふとどこかへ連れていってやろうと思ってしまった。連休の計画がうまくいかずにいつもの近所の公園で終わってしまったこともあって、わたしの中に少しでも遠くへでかけたい気持ちがあったのだろう、潮干狩りだと思いついてしまった。それに託けて平日の閑散とした海をみながらゆったりとした時間を過ごすのだ。おお、甘美なほどの贅沢!! もちろん町中で生まれ育っている子どもにとっても海での体験は貴重だろう。その上、娘は大の砂場好きで水遊び好きで広い所好きなのだ、それが思う存分砂にまみれることができるのだから喜ぶに決まっていると思えた。

 それでも当日の朝まで踏ん切りがつかなかった。ええい、一日ぐらい休んでもどうってことないわいと腹をくくり、ギリギリのタイミングまで引っ張ってから娘に話した。が、それも間違いだった。なんと、娘はよろこんではくれなかった。それどころか海にはいきたくないと言い放った。海よりも去年の夏にいった「ハーヴェストの丘」にいきたいという。そこで三百円を払ってポニーに乗り、十メートル四方の柵の中を一周した一分ほどのことが忘れられず、そのボニーにもう一度会いたいというのだ。もちろん娘の気持ちも大切にしてやりたいし、自分の知っているところにいきたいのも理解できるのだが、今日のところは勘弁してくれよと言いたかった。わざわざ休みをとっていくならやはり初めてに等しい海だろう。ところがどんなに説得してもウンとは言ってくれず、かえってそのまま潮干狩りを強行すると強烈に拗ねてしまいそうな雰囲気になってしまった。だがもう後へはひけない。とにかく出発して車の中で説得する作戦に切り替え、一旦は成功して海への道に入ったのだが、やっぱりイヤと言われ結局引き返して「ハーヴェストの丘」にいくハメになったのだった。
(教訓:たまの遠出で遊びにいくときは、到着するまで目的地をふせておくのも手だ)

 それにしても子どもと遊びにいって今日ほど不愉快で、疲れた日はなかった。思いどおりにいかなかったことでわたしのテンションがあがらなかったことは確かだ。しかしもちろんそれでいいと思っていたわけではない。現場につき、広いところでもあるのでどうやって過ごすかのおよその計画を立て、気持ちを立て直してせいぜい楽しもうとしていた。そのために少しだけ時間が必要だったのだ。だが今日の娘はむちゃくちゃだった。ほとんどゲートをくぐった瞬間から自走式のおもちゃのように好き勝手に走りまわり、目につくものを片っ端から「これがしたい」と繰り返した。そんなことを言われても、わざわざ遠くまでやってきて、百貨店や大きなスーパーに置いてあるような遊具で時間を潰してしまいたくない。彼女の絶対にゆずれない希望のはずだった「ポニー乗り」や、「牛の乳搾り体験」を親が優先しようとするのは無理のないところだろう。だから言って聞かせようとするのだが、そうするとうつむいて拗ねてしまってどうしようもなかった。
 結果的に大半は娘の思いどおりになっただろう。それはまぁそれでかまわない。こちらの気持ちがアクティブになっていなかった分だけストレスも大きかったが、遊びにきているわけだから思うようにさせるしかない部分もあるだろう。しかし許すわけにはいかなかったのが、目の届かないところへ勝手に走っていってしまうことだった。ちょっとでも目を離すとそのへんにいなくなるのだ。また姿を確認したところで、下の子のベビーカーや着替えなどの荷物があるために追いかけることもしにくい。何度言い聞かせてもだめで、あげくのはてに大人でも(大人ゆえにかもしれない)足がすくむような吊り橋を勝手に渡ってしまうのだった。子どもなりの理性的な判断をする部分が今日はこわれていたのだろうか? それともそんなに欲求不満が溜まっていたのか。普通ならひっつかまえてお尻の一つもひっぱたくところだが、遊びにきてまで大声を出すのもかわいそうなのでひたすら我慢の連続だった。

 これで最後だと約束した「変形自転車乗り」を終えてから、娘は性懲りもなく「こんどはあれがしたくなってきた」とキティちゃん形の大きなテントを指さした。中はエアマットでジャンプして遊べるようになっている。しかしいくら言われても時間的に限界だった。忍耐のほうの限界はとっくに超えている。そんなに約束を破るのならここで泊まれとドーカツして帰ってきた。
 疲れた。疲れて落ち込んだ。わたしがもうキレるか、いつキレるかと思っていたに違いない妻もさぞかし疲れたことだろう。たいへんだったと思う。娘に強引なほどの積極的な面があるのは、もって生まれた長所でもあると考えていた。だから妻もわたしもそれをスポイルせずにいい形で伸ばしていけるようにと腐心してきた。それだけに甘やかしすぎているのかどうかもわたしたちなりにきちんとチェックしてきたつもりである。だが今日ほどそうやってやってきたことが裏目に出たと感じたことはない。こちらの言うことを無視して人混みの中を勝手に走り回られたのではお手上げだ。もう遠くへは遊びにいけない気分……。


♪ with "Where Your Road Leads" / Trisha Yearwood