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子どものころ、「顔に書いてある」と言われることがよくあった。顔色に出ているのでバレてしまうということだが、心当たりがあるとうっかりほっぺたをさわったりしてしまうので、鎌をかけられることもあったのだろう。まわりの大人の趣味だったのか、わたしがすぐひっかかるタイプだったのか、とにかくしょっちゅう言われていたような気がする。最初のうちは、誰かに顔に落書きされた覚えなんかないのにどうしてそんなことを言うのだろうと不思議に思ったものだった。
同じくだりが上方落語の「口入屋」にもある。丁稚が「隠したかてあかん、顔に書いたぁる」と言われて、舌打ちしながら「誰が書きよったんやろなぁ……」と顔を拭き、「とれましたか?」ときくところだ。落語にあるぐらいだから相当古くからあるギャグなのだろう。
半年ほど前のことだが、たまたま故桂枝雀の「口入屋」のテープをきいた。ちょうどそのころは冬のイチゴの季節で、イチゴの大好きな上の子がわたしの分まで欲しそうな顔をしていたため「あげるよ」というと、むすめはいつになく遠慮したのか「いらない」と言った。ふと思いついて「あげるやん、『ほしいなぁ』って顔に書いたぁるデ」というと、「ほんと?」と言いながら不思議そうな顔をし、すぐにその顔がニカァとした笑顔になって「ほんとはほしい」と言ってイチゴを食べた。わたしはもう少し楽しもうと思って、むすめのほっぺたを拭いてやり「とれたよ」と言った。その後も似たようなことが幾度かあり、むすめが一生懸命自分で拭いたりすることもあったのだった。
春ごろだっただろうか、むすめがちょいちょい「パパはうそつきや」と言うようになった。わけをきくと「だれもかけへんのに、かおにかいてあるっていうから」とのことだった。ごもっとも。ここは素直にあやまり、「それは表情とか目つきとかを見てると隠してもわかるから、隠しごとをしてもムダやっていうことや」と教えた。「ほっぺたこすったら元にもどるから大丈夫」とも付け加えておいた。
昨日の夜、寝転がっての絵本読みが終わり、さぁ寝なさいの時間になったころほわ〜と芳しい匂いが漂ってきた。このときはわたしには身に覚えがなかったので、「プーしたか?」とむすめにきいた。背中をむけていたむすめはそのままの格好で「してないよ」と言った。少し眠気の混じった声だった。子どもが眠りに落ちるのは一瞬のことだ。それにしても、隠すようになったということは、そろそろこういうことを露骨にきくと嫌われるのかなぁと思いながら、一応「ふ〜ん。……でも顔に書いてあるデ」と言ってみた。背中をむけたままのむすめは返事をしなかった。やっぱり寝たのか。と、そう思って自分の姿勢を変えようとしたとき、むすめがほっぺたをこするのが見えた。
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