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2001年7月14日(土)
◆《セミとり》

「こけこっこぉー」という声におどろいて目覚めた。ナンヤ一体……。上の娘が「もうあさだよ、あさだからこけこっ……」といいかけたのでワカッタワカッタと制止する。窓の外はすっかり明るいけれど、時計を見ると六時になるかならないかというところだった。セミが鳴いている。もう少しだけでいいから寝かせてほしかったけれど、娘が起きてしまったらそれは叶わぬ望みだった。それでも少しのあいだ、覚醒までの霧の中をさまよっていた。横で娘が「にわとりはね、あさになったらなくんだよ」と声をひそめてまだ言っている。だいたい鶏が鳴くところなんか見たことあるのか? あるよ、テレビで。だろうな。鳴きまねの抑揚がなってない。本物はどこで見られるかな、動物園か? 全然頭が回らない。そうこうしているうちに十五分ぐらいは経っただろうか、ふと思い立って「セミとりにいこうか」といった。少し前からしたがっていたのだ。このままウダウダしていても仕方がない。娘は一瞬きょとんとしたあと「いく!」といった。

 ちょこちょこと用意をしていると、娘が整理ダンスからひっぱりだしたワンピースを布団の上に並べて「ねぇパパ、どっちのふくがいい?」ときいてきた。セミとりの格好で悩むなよなぁ……まったく、これだから女は疲れる。
 外に出ると、セミの声はうるさいほどだった。計画していたわけではないのでおもちゃのような虫取り網しかない。まぁなんとかなるだろうと、さっそく見つけた獲物に挑戦してみたがあっさり逃げられてしまった。網の部分が浅くて、虫が中に入っても折り返すこともできないことに気がついた。うまく入ったら地面に伏せるしかなさそうだ。案の定、そのあとも苦戦がつづいた。犬の散歩でとおりがかる人などが「とれましたか〜」などと声をかけていく。娘はそのたびに「まだなんですー、パパがまたしっぱいしたの。でもほんとはうまいんだよ」などと勝手な応対をしていた。
 少したつと目が慣れてきて、見つけるのも早くなってくる。たいていは高いところにいて、おもちゃのような網では届かなかった。たまに低いところにいるセミを見つけて娘に網を渡そうとすると、恐いといって受け取ろうとしない。「恐がりやなぁ」というと、「カラ(殻)だったらもてるんやで」と口をとがらせるのだった。

 収穫のないのを道具のせいにしても寂しさや悔しさには変わりはない。しかしそろそろ朝ご飯の時間だし、いい加減汗もかいたので今日のところはあきらめるしかないかなと思っていると、低いところにとまった絶好の獲物を見つけた。こいつしかないと網をかぶせると、うまい具合に地面に伏せることができた。虫かごがわりに持ってきた観察用の容器に入れる。アオムシを羽化させたときに使っていたものだ。フタの一部分にしかとまるところがない上、興奮しているためかセミは容器の中で暴れた。「おこってるよ」といって早くも尻込みする娘。そのうちにセミがひっくり返って静かになると「しんだ……?」といい、また動くと顔をのけぞるようにする。そしてすぐに「にがしてあげよか」といいだした。かまわないが、ちょっとは苦労したんだからみんなに見せてからにしたらというと納得したようだった。家につくころには「おおものやな、これ」とご満悦だったが、わたしがシャワーをあびて出てくると「もうにがしたよ」とのことだった。……まぁいいか。
kumazemi ベランダを覗くとセミくんはまだ逃げてはおらず、容器のフタにとまって、一旦あきらめた自由に茫然としているところだった。


♪ with "Reptile" / Eric Clapton