title
2001年7月28日(土)
◆《天使の非情》

 言葉に関してはあいかわらずマイペースの下の娘。食卓での「ぱぱぁ、ぷん」は「パパ、スプーンとって」の意味だ。はいはいと渡してやると次は「ぱぱぁ、あ」。発音できないものはすべて「あ」なので、これは視線から推理して「パパ、フォークもとって」のことだと解釈する。当たり。しばらくスプーンとフォークでカチャカチャやっていたかと思うとまた「ぱぱぁ〜、あ〜」と言う。今度は食べさせてくれ、だ。最近はどういうわけかわたしが給仕……ではなく給餌係になっている。上の娘は、今から考えるとそれを嫌う性格だったのか、親が食べさせるという作業をしたことがほとんどなかった。それだけにここへきて下の娘に食べさせるのはめんどうだが、かわいくもある。ときには大きく開けた口を自分で指さしたりして、雛そのものだ。

 体中が上質のコラーゲンでできているようにぽちゃぽちゃでぷりぷりしてきた。どんなことをしてもかわいい時代だが、下の娘はやはり妹で、常に姉との関係の中にある。一緒にいるときは姉の一つ一つの動作をおいかけるし、ものをとりあったりしてのケンカもしょっちゅうだ。あいかわらずの乱暴ぶりで、姉に対してはすぐに叩きにかかる。最近は姉のほうも少しは用心しているのか、目などにかかわる騒ぎも減ったし顔の傷もおさまっているけれどまだまだ油断はならない。

 深夜、子どもたちが寝入ってからの静かな時間をすごし、さてそろそろこちらも寝るかと横になると、上の娘が寝返りをうって転がりはじめた。少し暑いのかもしれなかった。しばらくすると下の娘とぶつかり、ふぎゃあという声やゴソゴソする音が聞こえた。上の娘をひっぱって場所を整えようかとも思ったが眠かったのでそのままにしていた。するとまたしばらくして下の娘の「いちゃあ!(痛い)」という声がした。今度は頭同士がぶつかったようだった。やっぱり場所を整えないとだめかと思って見ると、コロリと回転してうつ伏せになった妹が大きな頭をむくりと持ち上げ、すぐに右手を上げてまるでハエでも叩くようにそのまま振り下ろした。ピシャリという音がし、今度は姉の「いたぁー!」という声が上がった。そのあまりにも情け容赦のない仕事ぶりにわたしは思わず笑いだしてしまい、あわてて上の娘のフォローにまわる。オーヨシヨシ、コラエテクレ、シノンデクレ……。それでも泣き声の一つぐらいは出てしまう。子どもの泣き声とわたしの忍び笑いに妻も目を覚ましたので、実はこうこうと説明しながら、見ると、なにごともなかったかのように眠っている下の娘だった。


♪ with "Time After Time" / Eva Cassidy