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2001年11月2日(金)
◆《夜泣きDNA》

 子どものころ――
 家から三ブロックほど離れたところに公設市場があり、その入り口のあたりに本屋さんがあった。本が大好きだったわたしは母の買い物についていっては毎日のように本を買わせた。もっとも、店も小さく今ほど本が氾濫している時代でもなかったので、在庫もしれていたのだろう。すぐに買う本がなくなり、店主から「おっちゃんとこ、もう買うてもらう本ないわー、また来月になったら新しいのが入るからそれまで辛抱してな」と言われた。するとわたしは素直に頷く。そして母に連れられてとぼとぼと帰るのだが、家に着いた途端元気をとりもどし、平然と「ほん、かいにいこ」と繰り返すのだった。もちろん大泣きもつけて母を脅迫したらしい。

 また、家から一ブロックほどのところにはタバコ屋さんがあった。禿頭で無愛想なおやじが店番をしていて、軒下に置いたケースでアイスクリームも売っていた。当時の冷蔵庫では保存がきかなかったのだろう、買い置きなども無いために、アイスクリームが大好きなわたしは夜中に大泣きしてそのタバコ屋さんに連れてゆけと母に訴えることが多かった。母は、父の眠りを妨げないようにわたしを負うて深夜の戸外に出、タバコ屋さんの見える角までいくと「な、お店閉まってるやろ、また明日来よな」とわたしに言い聞かせ、どうにかこうにか寝かせたらしい。

 この二つは母にとってシビアな経験だったらしく、今でも言われる。というより、孫が小さい今だからこそ言われるのだろう。
 
 午前四時ほんの少し前、突然「まンまー、リンリンいこ!」(自転車であそびにいこ!)と絶叫しながら下の娘が起きた。昨日は寝るのをいやがって「じじー!」(らくがきしてあそばせろ!)と小一時間絶叫し、吐くほど泣いてのことだ。そろそろ聞き分けるかもしれないと思って、あれこれ試してみたが結局長引かせただけだった。要求をきくか、代案でごまかすか、嵐がおさまるのを待つしかない、昨日の今日だけにそれは身に染みていた。しかし要求をきくといっても、その時間に外に連れ出してわたしの母や隣近所を起こしてまわるわけにもいかないだろう。妻はもにゃもにゃと寝言のような返事をしながらやりすごす作戦のようだった。だがそう簡単にはわたしのDNAは引き下がらない。妻の上に乗りかかり、叩くようにしながら一段と声を張り上げる。「まンまァーッ! リンリンーッ!」。……時折切れ目もあったがやはり小一時間はつづいただろうか。

 一日の最初、母と顔を合わせると、まず様子をきくのが習慣になっている。
「おはよう、よぉ寝られた?」
「おはようさん。うん、まぁまぁ寝られたけど…… 泣いてたなぁ」
「聞こえてた? すごかったでぇ」
「なぁ、晩だけゆっくり寝かせてくれたらええのになぁ。あんたが小さいときも……」
「わ、わかってる」

 なんとなく眠気の抜けなかった日の夜、布団の上でほたえながら、冗談で下の娘を脅した。
「さぁ、今日はしっかり寝てくれよー、今夜まともに寝ぇへんかったら、毛ぇむしったるからな」
 すると上の娘にきびしく叱られてしまった。
「パパッ! 毛ぇむしったらあかんで! そんなことしたらかわいそうやんか、せっかくちょっとだけ生えてきたのに!」
(11/3)


♪ with "Songbird" / Eva Cassidy   
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