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2002年3月11日(月)
◆《あせたかおに》

 下の娘の耳は順調に回復しているらしい。ただ通院がたいへんだ。人気のある医院で、診察券を出した時点でまず一時間待ちと言われる。そうして一時間後ぐらいに行くとさらに一時間程度待たされる。今日はさらにそこに一時間が加わり、終わったのは一時をすぎていたという。病院などでもありがちなことといえばそうなのだが、診てもらうのが二歳児となるとたいへんさも倍増だ。初回こそ泣かずにすんだが、二回めは少し泣き、三回めの今日は泣きじゃくっての徹底抗戦だったらしい。看護婦三人が押さえつけての診療で、診るほうは慣れていても妻のほうは見ているだけでくたびれたようだ。それにしても、行く前から「なくでぇ」と自分で言いつつ実際に泣きたおすというのも、それはそれでスジがとおっている……と思うのは親ばかの証明なのだろう。

 上の娘は延長保育で五時まで幼稚園。会うかなと思ってそのころジョギングを兼ねて出てみると、すぐに前から歩いてくるのが見えた。あそびに出ていた下の娘は妻の押す自転車の後ろ席で眠っており、頭の後ろの線が水平になっていた。糸のゆるんだあやつり人形のようだ。少しはなれて歩いていた上の娘は戦闘意欲のあるいい目をしている。「おもしろかったか?」ときくと、「うん。いっぱいあそんだで、あせたかおにした」といった。「あせたかおに」は汗高鬼で、高い所にいればセーフになる鬼ごっこを汗だくになってやってきたということだ。ゆったりめですぐにずれそうなジーパンの濃い青と、くまの刺繍のはいったトレーナーの真っ赤な色がいっぱいあそんできたという言葉によく似合う気がした。ふっくらとした頬がピンク色に染まり、乱れた髪の毛にもたしかに汗の痕跡がある。あそびに対する真剣さが引き締めた口元ときちんとした視線に出ていた。悔しい思いの一つぐらいはあるのかもしれないが、それはもう親が踏み込む領域ではないのだろう。「そうか、よかったな」といった。特についてくる感じでもないので自転車から落ちそうな下の娘に注意して歩いていると、やがて追いついてきて「ほら、できたで」とペンペン草を差し出した。ハート型の実を、茎からぶら下がるように剥いて音が鳴るようにしてある。しゃがめというのでしゃがむと、茎を回すようにして「いいおとがするやろ」とその音をきかせてくれた。

 上の娘の幼稚園は明日でお弁当が終わる。小学校は給食だから当分はお弁当ともお別れだ。今日は園内の自由な場所でお弁当を食べてもよかったとのこと。プールで食べたらしい。

♪ with "Genesis" / Genesis