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『幼稚園の選び方』

▲おわりに▼
 子育てをしていると、当たり前のことだが、子どもがいろいろな経験を積み重ねて成長していくのがわかる。三歳は三歳なりにそれまでのことが基礎になっているし、五歳でも八歳でもそれは同じだ。人生の最初の十年ほどのあいだの経験は確実にその次の年の礎になるだろうし、やがては一生ものの経験として、記憶のあるなしにかかわらずその人の人生そのものを支えるだろう。その十年があそびの時代なのであれば、そのあそびを豊かに経験することが大切なはずだ。
 高度成長期あたりからの時代は、そんな子どものあそびを顧みずにその環境を悪化させ子どもからあそびを奪いつづけた時代だった。その結果として、現在の子どもがおかれた環境の中では、あそびの環境が一番大きく悪化している。家庭環境はどういう状態であれとにかく存在しているし、教育環境もそれほど大きな変化はない。だがあそびの環境はその存在自体が懸念されるところまで悪化しているわけで、対策を立てるなら、一番悪化しているところから考えていかなければならないはずである。

 だが物理的に子どものあそび場所を増やすのはそう簡単なことではないし、交通安全対策や犯罪対策も一朝一夕にはいかない。
 そんな中で、教育方針に自由度のある幼稚園が、子どものあそびをサポートする側になるかさらに悪化させる側になるかのちがいは非常に大きなものになる。特に、幼稚園が子どものあそびをさらに悪化させる側になってしまうと、小学校でさぁあそべという展開にはならないだけに、あそび経験全体がとても貧弱なものになってしまう可能性がある。

 エネルギーとパワーで勝負といった感じの若い保育師が、エアロビクス体操のようなお遊戯でガンバレガンバレと子どもを追い立てる。派手なハグで愛情表現。教室の壁にはアニメキャラクターの切り抜きが踊り、制作展は家庭の廃材で作ったディズニーランドのようになるといった幼稚園も少なくないらしい。行事を増やして、そこでわが子のがんばる姿をビデオに撮ることができれば、親は満足して次の年も次の子も入園させてくれるのだろう。しつけもしっかりやりますということにすればなおさら親は楽ちんだ。
 だがそういった幼稚園が、結果的に就学前の子どもや家庭から奪ってしまうものは小さくないだろう。
 たしかに、しんどくてもイヤでたまらなくても集団で行事をこなす忍耐力は身に付くかもしれないし、なんとか本番を乗り切ればそのこと自体は親も喜ぶしかないものだ。子どもにも自信になるかもしれない。
 しかしもしそんな方針に沿いきれない子どもが何パーセントかでもいたら、その子たちはどうなるだろう。忍耐力はつかず、無邪気にあそんですごせば十分なはずの幼児期が、しんどくてイヤでたまらなかったという思い出ばかりになってしまったりしたら、それはかなり悲惨な状況ではないだろうか。登園拒否でもしてくれればいいが、毎朝イヤがりながら送り出されてしまうといったグレーゾーンの子どもには、実質的にそんな悲惨な状況になっている子もたくさんいるかもしれない。検証はしにくいが、しにくいだけに、幼稚園が子どもにストレスを強いるやり方をしながら、うまくいくことしか想定していないとしたらそのこと自体がまずおかしい。
 そして行事の練習が増えるほどそれと引き替えにされていく、人生の糧となるはずのあそび体験や、それを通して得られるはずの体力や知恵や積極性はいつかどこかで補いがつくだろうか。アニメキャラクターを幼稚園が簡単に公認してしまうことは、子どもが他の物語に触れる機会を減らし、ただでさえテレビやビデオの前で過ごしがちな生活を助長したりしないだろうか。またしつけを請け負うことで、本来家庭でしかできないことまで幼稚園にまかせておけばいいという親の油断や誤解を生んだりしないだろうか。
 ……問題だらけなように思える。実際、ひょっとするとこういったタイプの幼稚園教育が、子どもを取り巻く現在のさまざまな問題の出発点になっているのではないかという疑いさえ、わたしは持っている。

 いずれにしても子どもにとってあそびが重要な生活、そして成長の要素だというのは確かだ。平成十年度の学習指導要領の中の幼稚園教育要領にも「幼稚園教育の基本」として、「幼児の自発的な活動としての遊びは,心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であることを考慮して,遊びを通しての指導を中心として……」といった文言が盛られている。音楽発表会のために楽器の早朝練習を課すような発想ではなく、ただでさえ劣悪で貧弱になっている子どものあそび環境をできるだけ補おうという発想のある幼稚園を、わたしは勧めたい。
 そういった幼稚園の考え方を測る機会として、運動会を見ると園の方針がわかりやすいという話をきいたことがある。子どもが活き活きとしているか、親にとってのアトラクションになっていないか、時間の長さはどうかなどたしかに見るべき点は多いだろう。いくつか見ればその違いもわかって判断の助けになるかもしれない。(2004.1.28)


 ▲はじめに▼
 ▲子どもを取り巻く状況▼
 ▲学校とのあいだで▼
 ▲入園と転園▼
 ▲おわりに▼(このファイル)

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